澪標の会提供 日露戦争アーカイブズ

DVDアーカイブズ 発刊に寄せて

監修の言葉 / 拓殖大学海外事情研究所教授 木村汎

『坂の上の雲』は、一読するだけでは惜しい。何度読んでも、どの部分から読んでも直ちに引き込まれ、最後まで読んでしまう。しかし数回目の読書からは、つぎのような欲求が生まれてくる。日本がまさに坂の上に到着しようとしていたこれらの輝かしい日々について、もっと詳しく知りたい。とくに日露戦争の推移や展開について、自分の脳中で確固としたビジュアル像を描きたい。――少なくとも私自身はそのような衝動に見舞われるようになった。

ところがである。そのような思いで図書館や書店に出かけていっても、かならずしも、その作業に役立つ適当な資料や参考文献が容易に見つからないのだ。もとより、私が寡聞にして知らないということもあろう。また、司馬遼太郎氏の名文や見事な分析に触れたあと、その他の日露戦争本が無味乾燥な事実の羅列や一方的に偏った史観のように映ることも作用しているだろう。ともあれ、この一冊だけを購入すれば、日露戦争について過不足なき知識が得られるという便利な出版物は、どこを探しても得られないようである。

もしそうならば、自分自身でそのようなものを造ってしまおう。そう決心して、同好の士が集まって、資料を蒐集しはじめた。われわれが当初目指したのは、司馬遼太郎著『坂の上の雲』を一層エンジョイするために、座右におき参考にするメモの類にすぎなかった。ところが、作業に熱中する結果、次第に日露戦争辞典のようなものに膨れ上がってゆき、ついに全五巻の本『日露戦争アーカイブズ』となった。

このような形で出来上がると、自分たちのあいだだけで秘蔵し回覧するだけでは惜しい気がしてきた。そこで思い切って同好の士の方々に実費負担でお頒けすることにした。

われわれは少なくともつぎのような情報を提供しようとしている。まず日露戦争に登場するすべての日本人、ロシア人、その他の「人名」。同じく関連の「地名」。日露戦争で使用された「兵器」の解説。ビジュアルな理解を助けるための「写真」と「地図」。それからわれわれが使用し、さらに今後研究を進められる方々のための参考「資料」の出所。

日露戦争にかんする資料集として、本アーカイブズを超えるものは、国の内外において、少なくとも当分のあいだは刊行されないのではないか。口幅ったい言い方かもしれない。だが、私たちはそのような自負と自信をもって、本シリーズを皆様に公開する。

■ 木村汎/きむらひろし
拓殖大学海外事情研究所教授,北海道大学スラブ研究センター名誉教授,国際日本文化研究センター名誉教授。京都大学法学部卒業,米国コロムビア大学Ph.D(政治学博士)。北海道大学スラブ研究センター教授,国際日本文化センター教授を経て現職に至る。著書に『日露国境交渉史』(中央公論社,1993.09),『国際交渉学』(勁草書房,1998.02),『プーチン主義とは何か』(角川書店,2000.12),『遠い隣国』(世界思想社,2002.06)など。

DVD版『日露戦争アーカイブズ』を見て / 慶應義塾大学法学部教授 横手慎二

露戦争は20世紀の最初の大国間の戦争であった。さまざまな意味で、その後の日本の歴史、東アジアの歴史、そして世界の歴史に大きな影響を与えた。このような歴史の意味を考える上で100年という時の流れは貴重である。現代と重ね合わせつつ、歴史の始まりと帰結を幾通りも結び、解き放つことを可能にするからである。

2005年5月に日露戦争をめぐる国際会議を東京で開催し、50人ほどの世界中の専門家と意見を交わしたとき、私は何度もこうした思いにとらわれた。ある者は観戦武官がいる戦争の意味を考え、また別の者は他国についての多様な認識から戦争が生じる過程に注目した、アメリカやイギリスの研究者とともに、中国や韓国の研究者が参加し、同時代の各々の国の人々が戦争と関わる様相を説明した。議論は途切れることがなかった。確かに日露戦争の歴史は、政治的意味づけばかりが先行し、まだまだ十分に研究されていないのである。

『日露戦争アーカイブズ』はこのような研究の状況を考えると、二つの点で推薦に値する。第一に、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を手がかりに歴史を理解するという方法がとられていることである。この歴史小説は、日本人一人ひとりに自分と日本の歴史のかかわりを考えることを促している。そこから生じる多くの問いかけは、歴史の楽しさと深さを教えてくれる。しかも、第二に、このような思考を促すために、このDVD-ROMは、今ではなかなか入手困難な資料を利用して、基礎的事実を非常によく整理している。『日露戦争アーカイブズ』に盛られた写真と地図、資料は見ているだけでも楽しいが、『坂の上の雲』をはじめとする歴史書と併せて、この戦争を知るために大いに役立つと言えよう。

■ 横手慎二/よこてしんじ
慶應義塾大学法学部教授。東京大学教養学部卒業。慶應義塾大学法学部助教授を経て現職に至る。著書に『日露戦争史』(中公新書,2005.04),『現代ロシア政治入門』(慶應義塾大学出版会,2005.05)など。

山梨学院大学法学部教授 コンスタンチン・サルキソフ

露戦争関係の文書はかなりの数で、ロシアと日本の古文書館に保存されている。歴史学者はそれを利用して100年前におきた戦争、またこの様々な影響を研究しているが、今でも一般の読者は勿論、学者さえ知らない文書と材料はたくさんある。文生書院が出版した日露戦争のアーカイブズのDVD-ROMシリーズはこういう意味で意義が深く、絶対に参考になるのである。

■ Sarkisov Konstantin/コンスタンチン・サルキソフ
· Born in Yerevan, Armenia, the USSR, in 1942.
· Graduated from the St. Petersburg (Leningrad) State University in 1966.
· PhD degree in 1975, “Japan and the United Nations.”
· Representative of the Institute of Oriental Studies, Soviet Academy of Sciences in Soviet Embassy in Japan, 1979-1983.
· Leading researcher of the Institute of Oriental Studies of the Russian Academy of Sciences, Vice-Director (1994-1998)
· President of the Russian Japanologists Association, 1994-1998.
· Member of the official delegation, State Visit by President of the USSR Mikhail Gorbachev to Japan, April 1991.
· Member of NEACD (Northeast Asia Cooperation Dialogue, consisted from Japan, China, ROK, Russia and the U.S., leading institution: IGCC, UC San Diego) from 1993 through 1999.
· Visiting professor of the Hosei University (1996-2001), teaching Japanese policy in Asia Pacific, Visiting Professor at the Hitotsubashi University (1997-1998), Special visiting professor at the Keio University (1999-2000) teaching “Russia during Yeltsin's era.”
· Current position: Professor at the Postgraduate School, Department of Law, Yamanashi Gakuin University.
· Publications: books, parts of books and articles on Russo-Japanese relations, Japan's foreign and internal policy, international relations in Asia Pacific, chapters in monographs on the Japan’s history.
· Current publications on the history of Russo-Japanese War.

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